F1五輪観戦記

F1を中心に、五輪なども取り上げるスポーツ観戦記です

フェルスタッペン鬼門のシンガポール。サインツが熾烈なバトルを制する

https://formula1olympic.files.wordpress.com/2023/09/image-20.png

フェルスタッペンの連勝記録も、レッドブルの開幕連勝記録も、すべて止まった。フェルスタッペンは終盤に追い上げたが、5位がやっと。現行サーキットで数少ない未勝の地・シンガポールは、やはり彼の鬼門だった。

サインツがポール・トゥ・ウィンで今季初勝利。終盤に上位4台が2秒以内に収まる熾烈なバトルを制した。フェラーリにとっても昨年オーストリアGP以来、1年2カ月ぶりの優勝だった。

スタートでフェラーリが1-2体制に

ポールポジションサインツと3番グリッドのルクレールが抜群のスタートを決め、1コーナーでフェラーリが1-2体制を築いた。

20周目終わりにセーフティーカー(SC)導入で上位の全車がタイヤ交換した際も、サインツは首位を守った。以降はレース終盤に備え、ハードタイヤの寿命と後続との差をみながらペースコントロールに徹する展開となった。

割りを食ったのがルクレールだ。SC中の2台同時タイヤ交換でピットに向かう際、サインツとの距離を空けるとともに、後続を抑える役回りをさせられた。

これでルクレールは一時的に6位に落ちた。

メルセデス勢が追い上げる白熱の終盤戦

サインツが後続のフタをしたまま逃げ切るかと思われたが、終盤のハプニングで白熱のレースとなった。

62周レースの44周目。オコンのストップによるVSC導入の際に、上位勢の作戦が割れた。ステイアウトしたサインツやノリス、ルクレールに対し、ピットに入ってミディアムに交換するギャンブルに出たのがラッセルとハミルトンのメルセデス勢だった。

新品タイヤで猛追するメルセデス2台に対し、ステイアウトしたルクレールは身体を張って追い上げを阻止する汚れ役を任された。

53周目にラッセルに抜かれたが、彼のラップタイムを2秒ちょっと落とすことに成功した。

この日のフェラーリサインツを勝たせるために、すべての犠牲をルクレールに背負わせた。結果的に、ここで稼いだ2秒が大きくモノをいうこととなった。

VSCから14周後、サインツ、ノリス、ラッセル、ハミルトンの4台は2秒以内に接近し、火の出るようなバトルをみせた。

残り4周。シケインが撤去された14コーナーから16コーナーの直線区間ラッセルがノリスに並びかけるが、ノリスはラッセルを汚れたオフラインへ追いやる形で阻止した。

ここで抜ききれなかったことがラッセルの命運を決した。これ以後はノリスに並ぶチャンスはなく、最終ラップの13コーナー手前で側面の壁にヒット。そのままコース外のバリアに突っ込んだ。

後続を引き付けた、サインツの老練なレース運び

ゴール後、サインツは久々の勝利を喜んだ。タイヤの寿命をみながら、エンジニアの指示通りのペースを走って得た優勝は、チームへの信頼の面でも大きい。

レース運びも老練だった。終盤の接近戦では、ストレート前でノリスをわざと1秒差以内に引き付け、DRSの使用権を与えることで、ノリスをラッセルの抑え役としていた。

56周目までラップタイムは1分38秒台半ばで推移していたが、4台の間隔が詰まった58周目以降は1分39秒台半ばから40秒台へガクッと落ちた、意図的に後続を引き付けたことが見て取れる。

『ペースはメルセデス勢が明らかに速い。しかし、自分のタイヤの状態はノリスと比べて分がありそうだ。彼にストレートスピードを与えればラッセルを抑えてくれそうだし、2位争いが白熱すれば自分を追うどころではなくなるだろう』——。

サインツにはそんな考えがあったのだろうか。一歩間違えれば自分がノリスに抜かれかねず、ペースの見極めがなければできない戦術だった。

(※追記:サインツも「頭の片隅にあった作戦だった」と意図的なペース配分を認めている)

まさかの不振にあえいだレッドブル

レッドブル勢は予選・決勝とも、入賞圏の10位前後をさまよう不振にあえいだ。

予選ではフェルスタッペン11位、ペレス13位でまさかの2台Q2落ち。決勝はハードタイヤでスタートするリバースストラテジーで臨んだ。

フェルスタッペンは20周目のSC時にステイアウトしたことで一時2位に上がったものの、後続に抜かれる一方で第1スティントを終えた。

ミディアムに交換後は入賞圏外から周冠宇、ハース勢、ピアストリらを次々とかわして5位で終えたが、自身の連勝記録は「10」でストップ。ペレスも10位に終わり、チームの開幕連勝記録は「12」、昨年最終戦からの連勝記録も「15」で止まった。

レッドブル不振の原因は不明だが、予選Q2ではドライバー2人ともグリップの悪さを指摘した。決勝でもSC後のペースは上がらず、公道コースに起因するタイヤの温まりの悪さに問題があるのかもしれない。

最強チームがシンガポールで突如不振にあえぐ構図は、2015年のメルセデスを思い出した。

不運に苦しむ角田、鈴鹿で日は差すか?

角田裕毅は予選Q2のアタック中にフェルスタッペンに前を塞がれる不運もあり15番グリッド。決勝でも1周目に角田のインを差したペレスと接触して0周リタイア。イタリア、シンガポールと、2戦連続で1周もできない不運となった。

逆に運を味方にしたのがデビュー3戦目のローソンだった。レッドブルの不振に加え、オコンのリタイア、アロンソのピット作業トラブルにより9位に繰り上がった。日本のスーパーフォーミュラの初レースで優勝し、現時点で3勝を挙げた適応力の高さを見せつけた。

今週末は日本GPを迎える。鈴鹿でのフェルスタッペン戴冠の可能性は消えたが、レッドブルコンストラクターズタイトル決定は濃厚となった。

不本意なレースが続く角田に日は差すだろうか。