F1五輪観戦記

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予選の大接戦も吹き飛ぶ、フェルスタッペン独走劇——ハンガリーGP

壊れた優勝カップ(この件は後述)を手に、今季7勝目を喜ぶフェルスタッペン

ハミルトンが予選で1年半ぶりとなるポールポジションを獲得。Q3で上位9台がコンマ5秒に収まる僅差だったことから、決勝前は混戦も期待された。

しかし、終わってみればフェルスタッペンの独走だった。これで個人の連勝を7に伸ばし、チームも昨年末から12連勝の新記録を達成した。フェルスタッペンの快進撃は止まりそうにない。

首位争いはスタートがすべて

スタートで2番グリッドのフェルスタッペンはまっすぐに蹴り出し、ハミルトンの真横に並んだ。ハミルトンがイン側に寄せてきたが、頑として自分のラインを守り、1コーナーで前に出た。

レース後のフェルスタッペンは「現在のマシンは重いから、(相手に付け入る隙を与えないように)ブレーキを遅らせた」と語った。ハミルトンはアウト側へはらみ、マクラーレン勢に抜かれて4番手に後退した。

首位争いという意味では、冒頭のこのシーンがレースのすべてだった。

抜きづらいハンガロリンクでは2番グリッドのドライバーがスタートに全神経を集中し、剛直なまでの一直線の加速で首位を奪い取ることがある。00年のハッキネン、08年のマッサのスタートを思い出した。

フェルスタッペンの一直線のスタートダッシュと、後方の大混乱

後方では5番グリッドの周冠宇がスタートで大失敗。焦ったか13番グリッドスタートのリカルドに1コーナー手前で追突した。リカルドははずみでアルピーヌと接触し、オコンとガスリーがリタイアに追い込まれるなど、大混乱に陥った。

ノリス2位、ピアストリ5位、好調のマクラーレン

マクラーレン勢が前戦シルバーストンに続く快走を見せ、ノリスが2戦連続の2位表彰台。5位にピアストリが入った。

ピアストリはスタート後に2位を好走。レース中盤にペレスに抜かれた際も2コーナー先の芝生に乗り上げながら抵抗を見せ、簡単に引かないところを示した。

ペレスへの抵抗をみせるピアストリ

ノリスはレース序盤にピアストリの後ろについていたが、1回目のダイヤ交換でアンダーカットを成功させ、2位に躍り出た。タイヤ交換後の2台のアウトラップはノリスが1分40秒5(18周目)、ピアストリが1分42秒2(19周目)。フジテレビNEXT川井一仁氏によると、「アンダーカットを仕掛けたノリスのアウトラップが大きくモノを言った」という。

ノリスは最終的にフェルスタッペンに33秒差をつけられたが、後方から追い上げるペレスに対してはうまくギャップを調整し、3秒8差で踏みとどまった。

アルファタウリ初戦で奮闘したリカルド。角田は試練の12番勝負に

アルファタウリの2台はリカルド13位、角田はそれに約15秒遅れの15位だった。リカルドにとっては1周目のアクシデントに巻き込まれたこと、角田にとっては最初のタイヤ交換に7秒3かかり、アルボンのアンダーカットを阻止できなかったことで、双方ともクリーンなレースではなかった。

7秒3を要した最初のタイヤ交換

しかし今回は、ぽっと乗ったマシンで奮闘したリカルドを褒めるべき週末だろう。角田を100分の1秒上回ってQ2進出を決めた予選、中古ミディアムでラスト40周を走り切った決勝とも、さすがの走りだった。

マクラーレン時代の不振から、アルファタウリでの彼の起用にやや懐疑的だったが、リカルドはやはり一線級のドライバーだった。

来季のレッドブル昇格を賭けた「査定レース」はあと11戦ある。角田はいかにリカルドから吸収して、そのうえで自身の速さを示せるかが問われる。日本人にとって、これだけのチャンスは初めてだ。果敢に挑んでほしい。

(※とはいえ、24年のレッドブル昇格は少々早すぎで、リカルドからしっかり学ぶには24年末までの1年半はほしい気がする)

このグランプリの真の見どころは予選

このグランプリの本当の見どころは予選だった。

使用タイヤをQ1ではハード、Q2ではミディアム、Q3ではソフトに固定する「ATA(=Alternative Tyre Allocation)」方式を初めて採用。タイヤの温まりの悪いメルセデスラッセルはQ1落ちするとともに、アルファロメオ2台がQ3に進出するなどの波乱も生んだ。

ハミルトンのQ3ラストアタックの走り

Q3でハミルトンが最終アタックでフェルスタッペンを0.003秒上回り、2021年サウジアラビアGP以来となる、通算105回目のポールポジションを獲得した。ハンガロリンクでのポールも9回目で、同一サーキットで史上最多だ。

2台を比較したCGによると、セクター2から3前半のテクニカル区間ではハミルトン優位だが、最終の2つのヘアピンでマシンがスライドし、フェルスタッペンとの差が急激に縮まった。まさに首の皮一枚の最速ラップだった。

ハミルトン、フェルスタッペン、ノリスの上位3台は0.085秒差。周冠宇が自己最高の5位につけ、トップとの差は0.362秒差。10位ヒュルケンベルグも首位と0.577秒差だった。

近年まれにみる僅差の予選だった。

レースで一変したレッドブルの速さ

予選の拮抗で混戦も期待されたが、上述の通りフェルスタッペン独走で終わった。

予選9位に終わったペレスもフェラーリ勢やハミルトン、ピアストリらを相手にオーバーテイクショーを続け、3位に飛び込んだ。この結果が彼の自信になればよいのだが。

ペレスがピアストリをかわしたシーン

レッドブル特急が止まる気配は見えず、当面の間、優勝カップは彼らに渡り続けるのだろう。

カップといえば、ノリスが表彰式のシャンパンファイトで優勝カップを壊す粗相をしでかしたのが爆笑シーンだった。

本人に悪意はなく、シャンパンボトルを表彰台に振り下ろした際の揺れでカップが倒れたのであって、八つ当たりで叩き割ったわけではない。

シャンパンファイト後、ノリスはフェルスタッペンに謝罪していた。

このレースを見る限り、レッドブル以外で次に優勝カップを手にするのはノリス、という気がする。そのときはカップを割る失敗はせずに、堂々と掲げてほしい。